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作者言い訳:このインタビューは、1997年6月より前の時点で行われているものと仮定します。
(なぜ、1997年6月なのかは、「空」をお読みのかたは、おわかりのはず)
また、作中に年号表記のない作品(「厄介な連中」「DESPEARDO」シリーズなど)に関しては、既刊の物語内での時点でインタビューしているものと仮定します。
(でないと、時代がぐちゃぐちゃになるので)
イーストリバー市ユアランド4丁目十番街── ここは、安っぽい歓楽街の奥深くにあるゲイバー「WILD」 である。
「アタシの得意料理はね、やっぱり美容と健康のためにサラダかな。サラダだけで何十種類も作れるわよ。最近は和風のサラダにも挑戦してみようかな、って思っているところ。お醤油風味のドレッシングもいいわよね。──え? アタシがインタビュアーなわけ? なんで? 通訳が面倒? ふーん。ま、いいけど、アタシもちょっと野次馬根性で興味があるから。じゃあ、手始めにDESPERADOシリーズの面々からにしましょうか。例のおふたりさんは、いまちょうど、この店にいるしね」
そう言ってリタがカウンターのほうへと歩いてゆく。
リタ「おふたりさん、せっかくの金曜の晩にお邪魔して悪いんだけど」
クラーク「悪いと思うなら、邪魔しなけりゃいいだろうが」
リタ「あら、ずいぶん不機嫌ね。いったい、どうしたの?」
クラーク「気が利かないやつだな。おまえが邪魔したからに決まってるじゃないか」
アンソニー「ちょっと待ってよ。デス。リタだって事情があるんだろうし。リタ、デスが不機嫌なのは、他に理由があってね。せっかく僕がつくって冷凍しておいたシチューを温めるときに焦がしちゃったからなんだよ」
リタ「あら……まあ。じゃあ、『デスの得意料理は?』なんて、あらためて訊くまでもないわね。訊く前から答えがわかっているもの。答え──『なし』」
クラーク「失礼なやつだな。いちおうあるんだぜ。簡単サラダとか」
リタ「サラダ? へえ、サラダはアタシの十八番よ。『簡単』ってことは、簡単なドレッシングの作り方ってこと?」
アンソニー「ちょっとデス。それって、まさか『レタスは洗ってちぎっただけでも食べられる』ってやつじゃないだろうね?」
クラーク「そうだが? 塩か市販のドレッシングでもかければ、立派なサラダじゃないか」
リタ「……(絶句)……」
アンソニー「あ……ええと、なんで得意料理なんか訊くわけ?」
リタ「作者命令よ。なんでも、HPの60000ヒット記念イベントで、『各キャラの得意料理とレパートリーの数インタビュー』というのをやるそうなのよ」
クラーク「またかよ。この前も変な座談会やったばかりだし……待てよ? この前の座談会は20000ヒット記念イベントだったはずだぜ。なんで、20000から60000に飛ぶんだ?」
リタ「さあ? 作者の都合じゃないの? あいかわらず遅筆みたいだから」
クラーク「『相変わらず』ってのは、良くもならないが悪くもならない、ってときに使うもんだろ。柏枝の場合は、悪化してるんじゃないのか?」
リタ「かもね。とにかくインタビューを続けなきゃ。でも、デスはともかく、トニーなら、得意料理もたくさんあるわよね」
アンソニー「まあ、あるにはあるけど……」
リタ「ありすぎて、選べないのなら、デスに好評だった料理とかに絞ったら?」
クラーク「トニーの料理は全部うまい。どれも一番だ」
リタ「デスに訊いてるんじゃないの。どんな高級料理店でも、『当店のお勧めメニュー』ってのが必ずあるものでしょ。つまりはシェフの自信作よ。トニーの自信作は何?」
アンソニー「ええと、結局はポトフやシチューみたいな煮込み料理かな。安い肉でも煮込めば美味しくなるし」
リタ「なるほど経済的なのね。レパートリーの数に関しちゃ、星の数ほどありそうだから、訊くまでもないとして。おふたりさんへのインタビューはこんなところかしら。あとは──ロブとダニエルね。面倒だから電話にしようかしら。ママ、電話借りていい? ありがと。じゃあ、邪魔者は消えるから、どうぞごゆっくり」
リタは、ふたりから離れて、カウンターの奥にある電話機へ──
リタ「──あ、ロブ? アタシ、リタ」
ロブ「……?どこのリタだ?」
リタ「あら、あなたって、そんなにもてたかしら。兄代わりに後見人になったクリスのほうが先にガールフレンドを作っちゃったのにねえ」
ロブ「クリスのことを知ってるのか?」
リタ「当たり前でしょ。会ったこともあるわよ。WILDで」
ロブ「ワ……なんなんだ? おれが今、どこにいると思ってるんだ?」
リタ「15分署でしょ。クリスから『夜勤だ』って聞いたから、こうして電話をかけているんじゃないの。電話かけてるだけだで、逮捕できる?」
ロブ「あ……まあ、それもそうだな。それで? 何の用だ?」
リタ「作者命令で、各キャラの得意料理とレパートリーの数のインタビューをしなきゃならないのよ」
ロブ「得意料理? ふーん、あ、おれ、あるぜ」
リタ「……驚いた。デスと五十歩百歩かと……あ、まさか『レタスをちぎって塩かけただけのサラダ』だなんて言わないでしょうね?」
ロブ「なんだ? そりゃ。クラークなんかと較べられちゃ心外だぜ。おれの得意料理は『A&Bディナーセット』と『ミルドレッド』だな」
リタ「……あの……それって冷凍食品じゃない?」
ロブ「それがどうした? 冷凍食品だって、うまく料理するのはコツがいるんだぜ。それに、いろんな冷凍食品メーカーを食べ較べて、いちばん旨いのを選んだんだし」
リタ「……あ……まあ、そうね。冷凍のシチューを温めて焦がしちゃったデスよりはマシかもね」
ロブ「当然だ。あんな不器用が服着てあるいてるようなやつと一緒にするなよな」
リタ「(笑いを噛み殺してる)……そうね。じゃあ、どうもありがと」
いったん電話を切って、リタがさらに電話をかける。
リタ「……あ、ダニエル? アタシ、リタ」
ダニエル「どうかしたのかい? デスかトニーに何か──」
リタ「ふふん、おあいにく様。金曜の晩だもの。あんたにはお気の毒だけどさ。それより、ちょっと訊きたいんだけど、あんたの得意料理って何?」
ダニエル「得意料理? ずいぶん唐突だな」
リタ「また問答無用の作者命令なのよ。『各キャラの得意料理とレパートリーの数インタビュー』だって」
ダニエル「なるほどね。といっても、インタビューする以前に答えがわかっているような気もするが……。ぼくの得意料理は、フランス料理系統だな」
リタ「さすがヤング・エクゼグティヴ。リッチねえ。で? たとえば、どんなメニュー?」
ダニエル「いちおう健康には気を遣っているのでね。白身魚と野菜のマリネとか、まんべんなく食材を組み合わせた料理だな。組み合わせだから、レパートリーの数もかなりあると思うよ」
リタ「マリネ?……フォアグラとかステーキは?」
ダニエル「そういったものは、自分で調理するより、自分の好きなレストランで、シェフが腕をふるったものを食べたほうが、美味しいからね」
リタ「……なんか次元が違うわね。でも、結局は自分で料理するより、豪華レストランで食べている回数のほうが多いんじゃないの? 」
ダニエル「そうでもないよ。朝食は自分でつくるし、昼は仕事の合間に、サンドイッチをかじっていることも多いし」
リタ「証券アナリストって多忙なのね。じゃあ、朝食はどんなメニュー?」
ダニエル「グレープフルーツを絞ったジュースと、ベーグル、コーヒー、シーザーサラダ、ってとこかな」
リタ「ジュースも自分で絞るわけ? 本格的ね」
ダニエル「ジューサーのお世話にはなってるけどね。それより、そのインタビューだが、『硝子の街にて』シリーズのキャラたちにもやるのかい?」
リタ「ええと──そうみたい。でも、アタシ、あまりよく知らないのよね。いちおう、イーストリーバー市は架空の街だし、あっちはニューヨークだし」
ダニエル「じゃあ、僕が君の代わりにインタビューしようか?」
リタ「本当? それは助かるわ。じゃあ、これでアタシはお役ご免ね」
ダニエル「では、お任せあれ」
含み笑いを残してダニエルが電話を切る。
──さて。電話を切ったダニエルは、いたずらっぽい微笑を浮かべると、クローゼットから麻の上着を取り出し、羽織りながら、外へ出たのであった。
「え? 『なぜ、シドニーやノブに電話をかけないのか』? 決まってるじゃないか。こういうのは直に反応を見たほうが、面白いからね。僕にとって人生は、楽しむためにあるのさ」
軽快な足取りで夜道を歩き、大通りでタクシーを拾ったシドニーの向かった先は──
ニューヨークのチェルシー24丁目にある、とあるアパートである。
シドニー「腹減った。ノブ、なんか食い物はないか?」
伸行「あるかなあ。おれもついさっき帰ってきたばかりでさ。冷凍庫を見てこようか」
シドニー「冷凍ピザでも、賞味期限切れのパスタでも、この際なんでもいいぜ」
伸行「そりゃあんたはね。こう暑くちゃ、あんまり脂っこい料理はパスしたいなあ」
おりしもシドニーの部屋でインターホンが鳴り、シドニーが受話器を取る。 シドニー「ダニエルが? 何の用だ? ああ、別にいいが」
伸行「ダニエルが一階に来てるの?」
シドニー「らしいが、どうも変なことを言ってるんだよな。『作者命令によるインタビューだ』とかなんとか」
伸行「作者って柏枝?」
シドニー「だろうな。別の作者がいれば、こんなに続編が遅れずに済んだのにな」
そこで、部屋のチャイムが鳴る。シドニーがドアを開けると、ダニエルが立っている。
ダニエル「やあ、こんばんは。都合がいいな、ノブも一緒か」
伸行「こんばんは、ダニエル。インタビューって、何の?」
ダニエル「それが君たちにぴったりの題材でね。『各キャラの得意料理とレパートリーの数』なんだけど」
シドニー「得意料理だあ? いつから、グルメ小説になったんだ? そんなもんあるわけないだろうが」
伸行「そうだよね。おれたちって冷凍食品かインスタント食品のお世話になりっぱなしだし……」
ダニエル「でも、一個くらい冷凍でもインスタントでもない料理があるんじゃないの?」
伸行「……うーん。なにかあったかな?」
シドニー「なにもあるわけないだろ。あったら奇蹟だ」
伸行「でも……あ、あれ! あれなら冷凍でもインスタントでもない」
ダニエル「和食?」
伸行「和食より中華に近いかな。チャーハン」
シドニー「チャーハンって……そんなもん、チャイナタウンのスーパーに行けば、冷凍食品で揃ってるんじゃないのか?」
伸行「そりゃそうなんだけど、あれって、要するに炊いた御飯を、野菜や肉、卵と一緒い炒めて味付けしただけだろ。日本にいたころ、作ったことがある。ばーちゃんが風邪引いて寝込んじゃたっときにさ、じーちゃんと二人で。肉の代わりに鮭を入れて、鮭チャーハンにしたんだけど、けっこう、うまくできてさ」
シドニー「へえ。じゃあ、それ作ってみろよ。なんかよけい、腹が減ってきたぜ」
ダニエル「僕も食べてみたいな。ノブお手製のチャーハン」
伸行「いま?」
シドニー「材料を買いにいかなきゃ、無理か。どこに行けば揃うんだ? 近場だと、やっぱチャイナタウンか?」
伸行「ええと……鮭って言っても、こっちのスモークサーモンとはちょっと違うし……。だいいち、御飯だって、日本じゃたいていの家庭に炊飯器があるけど、こっちじゃレトルトパックの御飯を買うしかないし……」
シドニー「じゃあ、はじめから冷凍のチャーハンを買ったほうが早いじゃねえか。いや、近くの中華料理屋から配達してもらったほうが、もっと早いぜ。そうするか」
ダニエル「シドニー──君が空腹なのはよくわかったが、君にも、ノブみたいな得意料理はないのか? 簡単なやつでいいから」
シドニー「『あるわけないだろ』って、何度言わせるんだよ。だいたい、この街じゃ、自分でつくるより外で食べるか、デリのサラダバーで買ってきたほうが安くつくんだぜ」
ダニエル「だが、ロッドがいたころは、ロッドがつくっていたんじゃないか?」
シドニー「……いきなり、何を……。昔の話だろ?」
伸行「そういえば、おれもロッドの料理を食べたことがあったっけ。おいしかったよ」
シドニー「そりゃ、ロッドは器用だから」
シドニーがダニエルの腕をとって部屋の隅へ連れてゆく。
シドニー「ダニエル、いったいどういうつもりだ?」
ダニエル「だから、作者命令によるインタビューを」
シドニー「嘘つけ。良からぬ魂胆があるのは、見え見えだぜ。いまさら昔の話を持ち出して、なんのつもりだ?」
ダニエル「へえ、君のほうこそ過剰反応じゃないのか? というより、ノブのことを心配しすぎてる、と言ったほうがいいかな」
シドニー「……」
ダニエル「図星だったようだね。(ウインク)きみもノブも、からかい甲斐があって楽しいよ。ま、また僕が泊まらなきゃならないような非常事態のときは、遠慮なく呼んでくれたまえ」
ダニエルが楽しそうに笑いながら、伸行をふりかえる。
ダニエル「じゃあ、ノブ。邪魔したね。ごゆっくり」
伸行「え? もう帰るの?」
ダニエル「まあね、シドニーのお楽しみの邪魔をしちゃ悪いからね」
シドニー「ダニエル!」
シドニーが殴りかかったが、ダニエルは身軽な動作でかわし、すでにドアに向かっていた。
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